2025年9月5日、立命館大学大阪いばらきキャンパス(OIC)で開催された「ROCKET PITCH NIGHT KANSAI 2025」。39組の挑戦者が、それぞれのアイデアを3分間のピッチに込めました。
その舞台で、Work & Lifestyle部門のPeople’s Choice Awardを受賞したのが、立命館大学の学生チーム「VisionPath」です。
あれから1年——
VisionPathは、国内外のビジネスコンテストや起業家育成プログラムへと挑戦の舞台を広げながら、AIを活用した歩行支援デバイス「PathOne」の試作・技術検証を進めてきました。目指しているのは、高齢者や視覚に不安を抱える人が、できる限り自分の力で移動し続けられる社会です。
3分間のピッチから始まったVisionPathの挑戦は、この1年間でどのように広がってきたのでしょうか。チームの原点と、現在地、そしてこれからを紹介します。
使い慣れた歩行器に、新たな「気づき」を
VisionPathが開発を進める「PathOne」は、既存の歩行器への後付けを想定した歩行支援デバイスです。
カメラや距離センサー、画像認識技術を組み合わせることで、周囲の障害物などを捉え、利用者に必要な情報を伝える仕組みの実現を目指しています。新しい歩行器に買い替えるのではなく、使い慣れた歩行器に機能を加える。その発想のもと、機器の取り付け方や情報の伝え方についても、実際の利用場面を想定しながら検討を重ねています。
高齢者や視覚に不安のある方が、より安心して、自分の力で移動を続けられるようにすること。それがPathOneの目指す姿です。

※開発中の構想を示したもので、完成品の写真ではありません。
開発の原点は、家族への思い
VisionPath代表のJake Smithさんが開発を始めた背景には、家族の存在があります。家族が視力や移動に不自由を感じる姿を身近に見てきたJakeさん。「身体を支える歩行器に、周囲の危険を知らせる機能も加えられないか」。そんな思いから、開発への一歩を踏み出しました。
17歳の頃には、段ボールやセンサーを使い、最初の試作品を制作。アイデアは2024年にMIT関連のハッカソンで評価され、その後、立命館大学で出会った仲間とともに「VisionPath」としての活動へと発展していきました。


大学で出会った仲間と、開発を進める
VisionPathには、日本人学生と留学生が集まっています。情報理工と国際経営。それぞれの専門性や経験を生かしながら、事業運営、技術開発、製品開発と役割を分担しています。文化や経験の異なるメンバーが、意見を交わしながら一つの製品をつくっています。
VisionPath
・Jake Smithさん|情報理工学部2回生・Founder & CEO
・Kairoさん|経営学部国際経営学科2回生・共同創業者(Co-founder)/事業運営
・Tobiさん|情報理工学部2回生・共同創業者(Co-founder)/技術開発
・Taiga Takahashiさん|情報理工学部2回生・製品開発
※所属・回生は2026年9月時点
文化も、育ってきた環境も、学んでいる分野も異なるメンバーたち。
しかし、活動を進める中で、4人のうち3人の祖母が歩行器を利用しているという共通点があることも分かりました。
「大切な人に、自分の力で歩き続けてほしい」。
PathOneには、その家族にも安心を届けたいというメンバーの思いが込められています。
ROCKET PITCHをきっかけに、挑戦の舞台が広がる
2025年9月の「ROCKET PITCH NIGHT KANSAI 2025」以降、VisionPathはさまざまな舞台で自らのアイデアを磨いてきました。
同年10月から12月には、RIMIXが主催する「学生ベンチャーコンテスト」に挑戦。ファイナリストに選出され、KairoさんとJakeさんがVisionPathの事業構想を発信しました。
さらに12月には、「Kyoto University International Entrepreneurship Contest 2025」に出場し、複数の賞を獲得。アイデアを発表するだけでなく、外部からフィードバックを受けながら、自分たちの事業や製品について考え続ける機会を重ねていきました。



オックスフォードへ。48時間でデモを形に
挑戦の舞台は、日本国内だけにとどまりません。
2025年11月から2026年2月にかけて、JakeさんはJETRO「J-StarX」のOxford Programに選抜され、英国・オックスフォードでのプログラムに参加しました。現地では起業家や専門家との対話を通じ、顧客が抱える課題やビジネスモデル、海外展開について考える機会を得ました。
そして「Oxford Venture Hackathon 2026」では、既存の歩行器をスマート化する後付けデバイスを提案。48時間という限られた時間の中でデモを制作し、優勝を果たしました。その後も、ACCJ Healthcare x Digitalで「Osaka LifeScience Nexus Award」を受賞したほか、「Takeoff Tokyo 2026」「SusHi Tech Tokyo 2026」にも登壇。VisionPathの活動は、国内外へと広がっています。


こうした経験を今後の製品開発に生かし、実際の利用場面で何が役立つのかを確かめていきます。
校友、企業へ。支援の輪も広がる
製品開発やコンテストへの挑戦と並行して、VisionPathを応援する人や組織とのつながりも生まれています。
2026年6月には、「立命館大学校友会未来人財育成奨励金(団体支援)」の支援対象団体に選ばれ、50万円の支援を受けました。翌7月には、立命館GICで開催された「PITCH!PITCH!PITCH!」で校友に向けて事業構想を発表し、3つの校友賞を受賞。製品開発と事業化に取り組む学生チームとして、立命館の校友からも応援を受けています。また、同月にアイシンと立命館大学が開催した合宿型アイデアソンにはメンバー全員が参加。「2040年の“生活”と“移動”」をテーマにそれぞれがアイデアを提案し、メンバーは合わせて3つの賞を受賞しました。



アイシン社員賞を受賞したチーム
高齢者と介護現場の声を、製品に生かす
数々の受賞やプログラムへの参加を重ねてきたVisionPathですが、現在、チームが特に力を入れているのは「実際に使う人の声を聞くこと」です。
PathOneは現在、初期試作機を用いた技術検証の段階にあります。
カメラと距離センサーによる障害物の認識や、撮影した映像から物体を判別する技術について、精度や処理速度を検証。AIや画像認識、各種センサーを用いた研究・試作を続けながら、歩行速度やバランスの変化を捉える機能についても検討しています。

同時に、これまで日本国内の高齢者や介護施設関係者へのインタビューも重ねてきました。実際に歩行器を使う人は何に困っているのか。介護や生活を支える人は、どのような機能を必要としているのか。
利用する本人と、それを支える人。
その両方の声を聞きながら、技術ありきではなく、日々の暮らしの中で本当に役立つ製品を目指しています。
1年前の「3分間」から、その先へ
次の目標は、現場の声をもとに試作機をさらに改善し、「どのような場面で役立つのか」「何がまだ足りないのか」を具体的に確かめていくことです。
そのために、介護・医療・福祉の現場や、研究・製品開発に携わる人たちとの対話を、これからも重ねていきます。ROCKET PITCH NIGHTは、自分のアイデアを3分間で発信する場であると同時に、新しい仲間や支援者と出会い、次の挑戦へ踏み出すきっかけとなる場でもあります。
1年前、OICのステージに立ったVisionPath。
そこから国内外のコンテストへ挑み、仲間と製品を磨き、校友や企業とのつながりを広げ、そして今、活動の軸足は「利用者の日常で本当に役立つ製品をつくること」へと向かっています。3分間のピッチから始まった挑戦は、まだ道半ばですが、確実に進んでいます。
RIMIXではこれからも、VisionPathをはじめ、自ら一歩を踏み出し、社会の課題に向き合いながらアイデアを形にしていく学生・生徒・児童の挑戦を応援していきます。
