【特集】日本の工芸品を、世界へ。Forbes JAPAN CULTURE – PRENEURS 30 2026に選出された、暖簾屋3代目アトツギ 上林央佑さん

1200年以上の歴史を持つ伝統染色技法、ろうけつ染め——。

京都で60年以上にわたりその技術を受け継いできた「京都染元しょうび苑」で、新たな可能性を切り拓こうとしているのが、3代目アトツギの上林央佑さんです。

2026年9月、上林さんはForbes JAPANが選出する、文化とビジネスを掛け合わせて新たな価値を生み出す人々「カルチャープレナー30 2026」に選出されました。

かつては家業を継ぐことに前向きではなかったという上林さん。何をきっかけに日本工芸の世界へと踏み出し、どのような挑戦を重ねてきたのでしょうか。今回は、上林さんが家業を継ぐに至った背景やこれまでの挑戦、そして日本工芸の未来にかける思いを伺いました。

ろうけつ染めを、世界へ

京都染元しょうび苑は、1963年に京都・上桂で創業した、ろうけつ染めの工房です。創業以来、のれんを中心に、職人が一点一点手作業で染色を行ってきました。

京都で唯一、幅の広い生地にろうけつ染めを施せる技術を強みに、現在ではアパレルやインテリア用のテキスタイル、壁紙などにも展開しています。

上林さんは現在、しょうび苑の3代目アトツギとして、海外への販路拡大や新たな商品開発に取り組んでいます。

主力商品ののれんを中心に世界15カ国へと販路を広げるとともに、壁紙やブラインドなど、ろうけつ染めの技術を生かした新たな商品を展開。伝統の技を受け継ぎながら、その可能性を国内外へと広げています。

家業を継ぐという選択

実は、かつては家業を継ぐことに後ろ向きだったと上林さんは語ります。

「どちらかというと、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズのような、“世界を変える大革命”に憧れを抱いていました。工芸なんて古臭いイメージがあるし、かっこよくない。産業も衰退してきている。もっと、世界を変えることのできる大きなビジネスをするんだ。そう思っていました。」

そんな上林さんの考えを大きく変えたのが、大学3年生のときに訪れたシリコンバレーでの経験でした。

上林さんは当時、立命館大学大阪いばらきキャンパスで開催されていた、起業家や学生などが集う交流プログラム「OIC CONNÉCT」にて学生アンバサダーを務めていました。そこでの出会いをきっかけに、アメリカの起業家育成機関「Draper University(DU)」でのインターンシップに参加することになりました。

約3週間の滞在中、37カ国から集まった約100人の起業家たちと交流しました。

そこで驚いたのは、日本文化に対する海外からの評価の高さでした。食やものづくり、アニメや漫画、そして日本の工芸。自分が古臭いと思っていたものに、海外の起業家たちは大きな魅力を感じていたのです。

その後、同年10月から再び約3カ月間シリコンバレーに滞在し、日本の工芸の可能性を探りました。また、AIなどの技術が発展するなかで、「人の手によって生み出される工芸品の価値は、今後ますます高まっていくのではないか」と考えるようになります。

家業について調べていくなかで、父親が持つ技術の高さにも気づきました。

例えば、染色できる生地の幅。着物に使われる生地は一般的に40cm前後ですが、アパレルやインテリアなどでは110〜150cmほどの幅が求められます。しょうび苑には、長年ののれん製作で培った、こうした幅広の生地を染める技術やノウハウがありました。

海外で再認識した日本文化の価値と、家業の技術力。これらの気づきが、上林さんに家業を継ぐ決意をもたらしました。

日本の工芸の価値を、世界へ届ける

家業に関わるようになってから、上林さんはさまざまな挑戦を重ねてきました。

数ある挑戦のなかでも、特に印象に残っているのが、台湾で開催された「Taipei Fashion Week 2026 AW」でのファッションショーです。

台湾のファッションブランド「C JEAN」と協業し、「SA TA NA MA」をテーマにしたコレクションを発表しました。

上林さんは、36着の衣装制作に関する調整からモデルの選定、演出まで、企画全体を指揮。コレクションの最後には、職人である父親が約600人の観客の前に登場しました。

ほかにも、パリ・ファッションウィークの期間中に行われた「JAN JAN VAN ESSCHE」の2027年春夏コレクションに関わる取り組みなど、海外で挑戦を重ねてきました。

挑戦を後押しした、立命館での学びと出会い

立命館大学での学びや人との出会いが、今の挑戦を支えていると上林さんは語ります。

在学中は、OIC CONNÉCTや学生ベンチャーコンテストなどに積極的に参加。海外の人々や同世代の起業家との交流を通じて、多くの刺激を受けてきました。

なかでも、ベンチャーコンテストで出会ったメンターや同世代の起業家たちとは、今も交流が続いています。

家業を継ぐと決めてからも、事業で悩んだ際にはメンターに相談するなど、立命館で築いたつながりが今も大きな支えになっています。

日本工芸の未来を切り拓く

2026年9月、上林さんはForbes JAPANの「カルチャープレナー30 2026」に選出。

上林さんはこの選出に「率直にすごく嬉しいですし、ろうけつ染めが注目されているという評価だと受け止めています。個人として賞をいただくのは初めてなので、とても嬉しいです。京都で職人としての人生を始めた祖父、技を繋ぎ、発展させた父、60年以上、共に歩んでくださったお客様、しょうび苑に関わってくださった全ての方々のおかげで、今日の私があります。
受賞はあくまでもゴールではなく、通過点として、また、名誉ある賞に恥じぬよう今後も工芸を世界へ広げていきたいと思っています」と語ります。

立命館の学生・生徒へメッセージ

「とにかく自由に挑戦してほしいです。そして、良い仲間を大切にしてほしいとも思います。」

上林さんが特に大切だと語るのが、環境選びです。

「僕自身、尊敬できる先輩やメンターの方々に出会えたことで、事業を成長させることが当たり前だと思えるようになりました。自分よりも先を進んでいると感じる人たちのいる環境に、思い切って飛び込んでみることが大切だと思います。」

どんな人と出会い、どんな環境に身を置くか。その選択が、自分自身の可能性を広げるきっかけになるのかもしれません。

京都で受け継がれてきた伝統の技を、世界へ —。

上林さんの挑戦は、これからも続きます。

PROFILE

上林 央佑 Osuke Kambayashi

京都染元しょうび苑3代目 / Textile Director

布に染み込ませた蝋(ろう)の亀裂から独特の線模様を生む伝統技法「ろうけつ染め」を継承する染色工房の3代目。大学在学中にシリコンバレーで起業家の事業支援に従事。帰国後は現地で培った知見や人脈を生かして家業の海外展開を担い、主力ののれんを中心に世界15カ国へと販路を拡大した。仏五つ星ホテルや世界的メゾンへの納入実績をもつほか、ろうけつ染め壁紙や欧州デザイナーと協業開発したブラインドなど、ファッションやインテリアへも用途を開拓。複数の伝統技術を事業として存続させる「伝統産業発のコングロマリット」構想も掲げている。

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